
なくて七癖、あって四十八癖
人は誰しも、身体の奥に小さな癖を住まわせて生きています。
その中でも国民的クセといえば、やはり貧乏ゆすりでしょう。
鍼灸院の待合室でも、トントントンと小刻みに揺れる足をよく見かけます。
多くの方は「落ち着きがない」と叱られた経験をお持ちですが、鍼灸師の目で見ると「ああ、身体が自分で気血を巡らせているな」と、むしろ感心する動きだったりします。
座っていると脚の経絡が圧迫され、気血の流れが滞り、いわゆる「瘀血(おけつ)」の状態に近づきます。
すると身体は「気を巡らせたい」「血を動かしたい」とSOSを出し、無意識に揺らして巡りを促そうとします。
つまり、足が揺れているのではなく、身体が自ら気血のポンプ運動を起こしているわけです。
責めるなら、あなたの足ではなく、あなたの生命力(=自己調整機能)を責めてください。
この現象が男性に多いのは、筋肉量が多く、陰陽でいえば「陽」が強いからとも説明できます。
陽が強い身体は気血の消耗も大きく、巡らせる力も必要になります。
だからこそ、貧乏ゆすりという自動巡り運動が起こりやすいのです。
女性の皆さん、パートナーが足を揺すっていても「イラッ」とせず、「ああ、今、気血を整えているのね」と温かく見守ってあげてください。
緊張やイライラで貧乏ゆすりが出るのは、揺れの刺激が脳のセロトニン分泌を促すからですが、東洋医学ではこれを「肝気の巡りが整う」と表現します。イライラは“肝”の気が滞った状態。揺れはその気を動かし、心を静める働きをするのです。
つまり、イライラしている人が足を揺すりだしたら、すでに自分で自分の肝気を整え始めているということです。
冷え性改善に貧乏ゆすりが有効という研究もありますが、東洋医学でも「冷え=気血の不足・停滞」。細かな揺れは、まさに内なる温め運動。
名前こそ「貧乏」とついてイメージ最悪ですが、実際は血行促進・精神安定・冷え改善の三拍子そろった自己治癒運動なのです。
鍼灸師としては「気にせずどんどん揺すりなさい」と言いたいところですが…まあ、図書館や会議中は控えめに。
周囲の肝気が乱れる危険があります。
近年の医学では、貧乏ゆすりが変形性股関節症の治療法として扱われていますが、東洋医学的に見てもこれは理にかなっています。
股関節は肝腎の要とされ、揺れによって経絡が刺激され、気血が巡り、関節の動きが改善するからです。
結論として、貧乏ゆすりとは「身体がこっそり行っているセルフケア」。
あなたの足元でせっせと働いているのは、貧乏神ではなく、名もなき経絡調整師なのかもしれません。
文/宮嶋裕司
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